暗渠に滴る悦楽と苦悩の雫。 憂いの天使の秘谷に湧く甘露の泉。 存在の罪に震える器官からの分泌物。 魂の最奥の虚に響く水音を閉じ込めた水琴窟。
 

三月の終わり頃のことだった。
四谷三丁目のイメージフォーラムでヴェルナー・ネケス監督の『ユリシーズ』を観た帰りのことだった。約束の時間に女の家を訪ねると、女は地下室の階段下に素っ裸のまま逆さになって倒れていた。後頭部から血が流れてセミロングの髪をべったりと濡らしていた。
どうするか尋ねると「お願いします」と返事があったので、型通りにキスから始めた。
四十過ぎの痩せた女だった。生白く弛んだ肌が冷んやりと湿っていた。
頬から肩へ、肩から二の腕へと、全身を左手でまさぐっていくと、女は朦朧としながらも切ない声を漏らして手の動きに応えた。濃い陰毛を掻き分けて指を使った。唇と舌も使った。女の陰毛は濃かった。予めシャワーを浴びていないのは約束違反だったが、そんな状況ではなかったのだろうと察しておくことにした。女は眉間に皺を寄せ、固く目を閉じていた。口を大きく開き、息を荒くしていたが、やがて二度、三度、突っ張るように下半身の筋肉を硬直させるとそのまま静かに動かなくなった。
心肺の停止を確かめると、左手と口もとを拭い、持参した黒い布を広げて女の体を覆った。
三呼吸ほど待って布を取り払うと、あとには抜け殻だけが残された。
女の家を出て、閉園間際の新宿御苑に寄った。
満開の桜の下で布を払い、春の空に女の魂を解き放った。


 

ゆめの なかの ベアたんには
ちいさな おちんちんが はえていたよ


 

仔馬たちの肉体の
最も不潔な部分の痕跡をさがして
私は春の夜をさまよい歩く

鬱々として
やり場のない
怒りの発作に襲われながら

コートのポケットに右手を突っこんで
脂に曇ったハンマーの柄と
生勃ちの陰茎を交互にさすりながら

乾いた尿の香りに似た
春の夜の匂いに誘われるまま
欲望の発露の陰惨な過程を思い描きながら

朦朧として私はさまよい歩く
仔馬たちの肉体の
最も不潔な部分の痕跡をさがして

沸騰する体液の疼きを抑えきれぬまま
今にも泣き出してしまいそうな
劣情の惨めな虜となって


 

私鉄の駅前商店街にある小さなランジェリーショップが優子の職場だった。
閉店時にオーナーである伯母が来るほかは、たいがい一人で勤務していることが多かった。

ある午後のことだった。
黒いジャージの上下を着た男が入ってきた。
ワゴンの安売りの二枚組みショーツを手に取り、クロッチの部分を広げてみたり、執拗に指で擦ったりしていた。
困ったなと思ったが、どう言葉を掛けていいのか分からなかった。
そんままどうしたものかと迷っていたところに、男の方から話しかけてきた。
「生理用のショーツありますか」
わざと声を裏返した薄気味悪い喋り方だった。
「あ、はい。そちらです」とサニタリーショーツのコーナーを指さした。
透明なパックに入ったものをひとつ手に取ると、男はレジの前にやってきた。
「サニタリーは生理の意味ですか」
「そうですね」と優子は適当な返事をした。
「これはどう使いますか」
「普通にお使いになれますね」
「パンティの上から穿くんですか」
パンティという言葉の、その何だかねっとりとしたいい方が嫌な感じだった。
「奥様かどなたかのでしょうか。お使いになる方はおわかりだと思いますが」
丁寧に話を逸らそうとしたが、男は聞いていなかった。
「直に穿いていいんでしょうか。ナプキンも使うんでしょうか」
「はい、ですから、お使いになる方はご存知でしょうから」
「ナプキンをこうやっておまたに当てて、それで穿くんでしょうか」
こうやってといいながら、男は自分の手を股間に持っていった。
うっかりそこに目をやって、嫌なものを見てしまった。
男はジャージの前の部分をこれでもかというぐらいに大きく膨らませていた。
狼狽したところを見せては男につけ入らせることになると思い、無視することにした。
「はい、お使いになる方はご存知だと思いますから」
同じ言葉を繰り返した。
男はサニタリーショーツを元に戻すと、今度はガードルを手に取った。
「サイズはこれで大丈夫ですかね」
そう訊きながら、ガードルを突き出た股間の前でヒラヒラと動かした。
「さあ、SMLがありますけど」
「Lなら僕でも穿けますか」
「大きいので大丈夫だと思いますけど」
「そうですか。でも、ほら、男は前に余計なものが出っ張ってるからね、どうかな」
そういいながら、男はわざとらしく前を突き出して見せた。
「どうでしょう、わからないですけど」
優子はあくまで無視を貫いた。
「試着してみてもいいですか」
厚かましい男だった。
「それは、あの、ちょっとお断りしているんですが」
「試着室あるじゃないですか」
「いえ、下の方のものはみなさん、お断りしてるんですよ」
「なんでかな、なんでお断りするのかな」
「店の方の決まりで、そうさせて……」
皆まで聞かずに男は言葉を継いできた。
「あ、わかった。汚れちゃうからだ。そうだ。女の人って、どうしても大事な部分をお汚ししちゃうもんね、どんなひとでも。誰でもそうでしょ、お姉さんもお汚ししちゃうんでしょ」
気持ち悪くてたまらなかった。
何と言っていなせばいいのか分からなかった。
「いえ」
「恥ずかしいことじゃないよ。女の人は生理的に汚しちゃうような体の仕組みに出来てるんだから。ね、大丈夫」
「お求めになるものはお決まりでしょうか」
努めて冷静に、優子は対応したつもりだった。
男は安売りのショーツを一組レジに持ってきた。
値段告げると男は財布を開け、バラバラと小銭を取り出し、その手を突き出した股間のすぐ前で構えて動こうとしなかった。男は小さく腰を前後に動かしていた。
できるだけ男の皮膚に触れないように、優子は一枚ずつ硬貨を摘み上げたが、どうしても指先が男の汗ばんだ掌に触れてしまった。最後の一枚を摘み上げたとき、男は人さし指の腹でさっと優子の親指の付け根を撫でた。
早く手を洗いたいとそれだけを優子は思った。
紙袋に入れたショーツを受け取った男は、すぐには出て行かなかった。
「あのう……」と再び話しかけてきた。「……お腹痛くなっちゃったんですけど、トイレ貸してもらえませんか」
「……どうぞ。そこのドアです」
優子はレジの横の扉を案内した。着替えをしようが、オナニーをしようが、何でもよかった。さっさと気が済むまで何でもして、早く出て行って欲しかった。
男はしばらく中に籠もっていた。
やっと出てきたと思うと再びレジの前に直立した。
「これ、お姉さんが使ったやつですか」
そういって男が差し出した手には、汚物入れに捨てたおりものシートが握られていた。
言葉を失う優子の目の前で男は小さく畳まれたシートを開いて見せた。
「これ、おねえさんの使ったやつですよね」
気分が悪くて、血の気が引いていくのが分かった。
「へへ、おねえさんの恥ずかしい秘密見ちゃった」
男はシートを鼻に当て臭いを嗅ぎ、それからべろりと舌でひと舐めした。


 

月の明るい夜だった。酔い潰れた私は、甲板の端にしゃがんで泣きじゃくる半ズボンを穿いた五歳の少年になっていた。
「坊や、こっちにおいで」
老人に手を引かれて船倉に降りていった。
たくさんの輪が回っていた。
地球儀や黄道儀があった。
牛飼いの娘の体がばらばらの部品に分かれて、そのそれぞれがそれぞれの軌道を回り終えてまた元に戻る機械仕掛けの人形があった。
「おっしっこを漏らしてごらん」と老人はいった。「そのまま、ズボンを穿いたまま」
いわれた通りに小便を漏らした。
老人は嬉しそうに笑いながら、熱く濡れたズボンを脱がせ、下半身を拭いてくれた。
「ああ、可愛い、なんて可愛いらしいおちんちんだろう」
そういって老人は、私の小さな肌色の突起を口に含んだ。
ねっとりとした肉の管の奥へと、ねじれながら吸い込まれていくような、老人の口の中の感触だった。痺れるような感覚に貫かれて、私は全身を震わせながら小便を漏らし続けた。

気がつくとそこは街外れの公園だった。
私はベンチの脚に背をもたれ、両脚を地面に投げ出していた。
ズボンは膝まで下げられ、剥き出しの局部が月に照らされていた。
根元まで濡れそぼったものが、だらりとだらしない姿を股間に晒していた。


 

街道から一本裏手に入った通り沿いの、あばら家のような市営住宅だった。
空家だと思って玄関の引き戸を蹴倒して中に入ったら、住人がいた。
「すみません、すみません! 申し訳ありません!」警察に電話しようとするので必死に言い訳をした。「あんまり寒かったんで、つい。本当にすみません!」
「何いってるんですか、あなた、不法侵入ですよ!」
「空家だと思ったんですよ。夜っぴて歩いて、寒くて、眠くて」
「そんなこと関係ないでしょ、すぐ出て行ってください! とにかく警察呼びますから」
「ちょっと勘弁してくださいよ」
受話器を離そうとしないので腕をつかんだら、女は大きな声を上げた。
「やめてよ、何するんですか!」
面倒なので頬を強く殴りつけた。
女はその場に崩れておとなしくなった。
四十代の半ばくらいだろうか、肌が少し疲れてはいるがマアマアいい女だった。
顔を近づけ、目を覗き込みながら因果を含めた。
「いいか、俺は風の当らない暖かい場所で少し眠りたいだけなんだよ。分かるだろう、同じ人間としてその気持ちは?」
女が何か言おうとしたので引っ叩いた。
女は黙った。
「同じ人間として、俺に屋根のある場所で寝ることを許して欲しいだけなんだよ。権利だとか何とかいうつもりはないよ。ただ思いやりを示して欲しいんだよ。憐れみの心を。困ったときは助け合うのが人間だろ?」そこでもう一発、今度は反対の頬を思い切り張ってやった。「おとなしくしていてくれれば、もうこれ以上乱暴はしない。約束しよう。昼までだ。昼になったら出て行くから、それまで寝させてくれ。いいな。警察に連絡したり、人を呼んだりしないこと。大きな声を出すことは禁止だ。できればずっと黙っていて欲しい。俺が起きるまで外に出ないこと。これだけ守ってくれればいい。分かったな?」返事をしないので、拳を握って見せると、女は黙ってうなずいた。
「よし。じゃあ、服を脱いで裸になって」
女はギョッとした顔をしたが、声は出さなかった。
「そんな顔しなくていいよ。大丈夫、襲ったりしないから。ただ用心のためだから。人を呼んだり、逃げ出したりしないようにさ。分かったら、はい、さっさと脱ぐ!」
女はノロノロと服を脱ぎ始めた。
「よし、そうだ。パンツもだよ。全部脱いで、すっぽんぽんになって。オーケーオーケー。ほお、けっこう毛深いね。いや、いいんだよ、俺、毛深い方が好きだから。って、オラッ! 隠すなよ! よしよし、それでいい。そうしたらゆっくりその場でまわって。うん、きれいだ、きれいだ。じゃあ、いいよ、あとは自由にしてて。寝ててもいいし、テレビ観ててもいいし、好きにしてて。ただし、この部屋から絶対に出ないこと。トイレも我慢できなくなったら、どこか隅っこで済ませておいて。ああ、そこの屑入れを使えばいいな。よし、分かったかな? ハイ、じゃあそういうことで。以上、解散!」
冷蔵庫に入っていたもので適当に食事をして、コタツに入って横になり、目を閉じた。
たちまち深い眠りに落ちた。

乱暴に揺すられて目を覚ました。
手には既に手錠が掛けられていた。
部屋の中には警官がひしめき合っていた。
そりゃそうだよな、と思った。バカじゃなきゃ、警察を呼ぶよな、と。俺だって呼ぶもの。
女は台所で事情を訊かれていた。
当たり前だが、もう服を着ていた。
一発やっておいてもよかったかな、と少し後悔したが、まあでも、やってたら罪状が増えちゃってたなと、これでよかったのだと思うことにした。




地味な顔立ちの女だった。
色白で目が細く、少し浮腫んだような感じがあった。
気の弱そうな質に見えた。
身長は百六十七、八といったところだろうか、仔兎というには少し大柄だった。
腋臭のある女だった。

最初に睡眠薬で眠らせたとき、からだの隅々まで観察した。
三日間穿いたままの下着は表から見てそれと分かるほど恐ろしく汚れていた。
毛深い体質だった。
臍の直下に生え始めた陰毛は幅を増しながら恥丘に至り、肛門の周囲まで密生する剛毛で陰裂を蔽っていた。
毛叢を分けて肉襞を指で広げてみた。
陰核は小さく、小陰唇も未発達だった。
裾腋臭もあり、きつい臭いがした。
肛門には疣痔があった。




欲望を剥き出しにした男の視線によって彼女は裸にされている。
無造作を装って投げ出された肢体には隠し切れない女の媚態が滲んでいる。
赤く火照った頬、熱っぽく潤んだ瞳。
蛞蝓のように互いの舌を絡ませ合った長い接吻が交わされる。
二本の指が差し入れられ、彼女の内部を弄ぶ。
(ダメ、恥ずかしいよ)
甘い声を漏らしながら、彼女は白蛇のようにからだをくねらせる。
せがむように腰を動かし、逞しい腿で男の手首を締めつける。
中を掻き混ぜられる水音が大きくなる。
(出ちゃう)
しぶきが男の掌を濡らし始める。
(出ちゃうよ!)
はしたない叫びとともに、水が噴き出していく。
(見ないで、見ないで!)
自ら求めた恥辱に身悶えながら、彼女は恍惚の顔を浮かべる。



汚辱の記憶を振り払うかのように、私は目の前に立つ髑髏の女を突き飛ばした。
女はニ三歩後ろによろめくと、仰向けにひっくり返った。
全身の形を保つ力が突然失われたかのような倒れ方だった。
崩れ落ちた骨格標本の残骸の中で生白い腰の肉が存在を主張していた。
たっぷりと肉の乗った下腹部と太腿。
湿り気を帯びたような肌理の細かい艶かしい肌。
透けて見える青い静脈。
倒れた拍子に不様に開かれた腿の間には、熟しきった陰部が曝け出されていた。
肛門の周囲から萌え出した褐色の陰毛が陰裂を縁取りながら恥丘の茂みに続いていた。
皮脂の分解された強く鼻を衝く臭いに混じって、尿と分泌物の入り混じった蒸れた性器独特の甘い発酵臭が漂ってきた。
よじれるように腰の肉が動いた。
閉ざされていた陰裂が微かに開いた。
雛先の突起の下に覗けた小さな唇の隙間に一粒の露が光っているのが見えた。
肉がもう一度動いた。
ひくり、と唇が笑った。



俺のすべての「好き」は「セックスしたい」という純粋で性的な情熱に支えられている。
女たちと、男たちと、獣と、樹々と、花々と、空、雲、詩、歌、海、波、風、太陽と!
すべての好きになるものと俺はセックスしたい!
噴き上げる熱い愛と精液をすべての愛するものの奥深くに注ぎ込みたい!


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